こんにちは、スタッフ野田です。
早川工房のご紹介(その4)をお送りします。

最終回となる今回は、完成間近の行程や完成品のご紹介をしていきます。

早川キューというと杢目を活かしたハギなしのデザインが多いですが、ハギを入れる技術ももちろん持っています。

ハギを入れたフォアアームの部品です。
ショートスプライスと呼ばれる製法が用いられています。
4枚重ねのベニヤ材が一緒に写っています。
これをベースとハギの間に挟み込んで接着し、ハギの縁取りとするわけです。

これはバットにジョイントを取り付ける加工をする旋盤です。
キューケースでお馴染みのアメリカのメーカー、ジョー・ポーパーの製品です。
ジョー・ポーパーは何種類かのキュー製作・メンテ用の旋盤を販売していました。

この旋盤にバットをセットしたところです。
芯材が見えていますが、これにジョイントカラーを取り付け、ジョイントピンの取付をしていきます。

こちらは先角を取付する旋盤です。
古色蒼然という言葉がぴったりの、かなり古い旋盤です。
大きな茶色の円盤状の部品が付いていますが、これは手で回転の制動をかけるためのものです。
この旋盤を使って先角の取り付けを実演してもらいましたので、工程をご覧ください。

シャフト材をセットしたところです。


先角を取り付けるための芯を削り出します。
先角用の材料(茶色の筒状部品)が置いてあるのが見えます。


先角材と透明の座を接着して一緒に削っているところです。
この後に取り付けるタップが見えます。
このシャフトはブレイク用なので樹脂タップを取り付けます。


タップを接着して削ります。


旋盤の刃(バイトと呼ばれます)で削るだけではなく、このようにヤスリを使って調整を行なうこともあります。職人の微妙な感覚が問われる作業です。


取付完了です。


この作業で使用した先角はラミネート材で、何色かのバリエーションがあります。

さて、キューの仕上げと言えばやはり塗装ということになります。


塗装を行うスプレーブースです。
密閉された空間で揮発性の溶剤を使用するので、大型の換気扇が設置されています。
溶剤を吸い込むと健康を害する危険があるので、キューメーカーは塗装する環境に色々な工夫をしているのです。


塗料を調合する作業台です。
木の蓋がしてある円筒形の金属製ケースがありますが、この中には・・・


塗装を行なうスプレーガンが保管されています。
ノズルが詰まったりしないように、溶剤の中に浸してあります。
溶剤が揮発してしまうことを防ぐために木の蓋がしてあったというわけです。


組み立て作業がほぼ終了し、塗装を待つキューです。
ちょっと写真では分かりづらいですが、塗装されていない木の地肌は艶消しの状態になっています。
これに塗装を施すと表面に光沢が出て非常にきれいな外観となるのです。


早川工房ではジャンプキューも製作しています。
写真中央にあるバットがジャンプキューのもので、プレー用より細くて短いことが分かります。
早川キューは杢目の美しさを活かすためにノーラップのキューが多いですが、もちろん革巻きや糸巻のキューもあり、これは塗装終了後に行ないます。


グリップ巻きに使用する様々な色の糸(アイリッシュ・リネン)です。
自社のキューに使うことは勿論、早川工房では色々なメーカーのキューの修理も行なっているので、多くの種類の糸を用意しています。

こうして塗装・グリップ巻が終了すると完成となります。


完成したキューです。
工房を訪問した際に完成していたキューを撮影したものですが、ハギやインレイが入ったキューが多めでした。
右から2本目の水色のスタビライズウッドのキューにはトリファイドシャフトが付属しています。
左から2本目は剣ハギとタケノコハギの複合デザインになっています。

これは早川氏が自身で使用しているキューです。
プレイキューはバックアイバールに黒檀のハギ、メキシコ貝のインレイが入っています。
ブレイクキューはメイプルバールのスタビライズウッドに黒檀のハギとバットスリーブです。
バットはキャロム用のもので、これにポケット用のロングシャフトを付けて使用しています。
ジャンプキューはダイモンドウッドという材料をバットに使用しています。
これはラミネート材を樹脂で固めて圧縮処理したものです。

さて、シャフトには曲がっていないことは勿論、表面に節が無いこと、木目が真っ直ぐ通っていること、硬くて粘りがあること、撞いた際の音や感触が良いことなど非常に多くの厳しい条件が要求されます。
通常のメイプル材でこれらを全てクリアすることはなかなか難しく、そのためにシャフト製作の過程で多くが廃棄されるということを以前の記事でご紹介しました。
そしてこの問題を打開するために早川工房では「トリファイドシャフト」という新しいシャフトを開発しました。
トリファイド(torrefied)とは焼く・炙るといった意味で、熱を加えて木材の細胞構造を変化させる科学的手法です。
これはギターなどの楽器製作に用いられており、新しい木材を長期間寝かせて安定させるのと同等の状態にするものです。
早川工房ではメイプルにこの手法を用い、さらに独自の工夫を加えて硬くて変化しない安定した品質のシャフトを製作することに成功しました。

ご覧の通りトリファイドシャフトには薄い茶色と黒に近い茶色の2種類があります。
これは熱を加える際の温度差によるもので、着色ではなく木の地の色です。
黒い方は高い温度で加工たハイ・トリファイドで、低い温度のものが茶色のロー・トリファイドになります。
温度が高い方が木が炭化してより硬くなり、カーボンシャフトに近い感触になります。

これは加工前のトリファイドシャフトです。
左端のシャフトには丸い芯材が入っているのが分かりますね。
その右側にはまだ芯材が入っていないシャフト材があります。
(四角い芯材のように見えるのは個別管理するために張り付けてあるマスキングテープです)
トリファイド加工した材料は硬くなると同時に少し脆くなるのでので、そのままジョイントのネジ切りを行なうとネジ山が崩れる危険があります。
そのため長さ120mmのメイプルの芯材を入れて、それにネジ切りをしています。
また、トビ軽減のために中空加工がされています。
カーボンシャフトは太さやテーパーなどのサイズ調整をすることができないという制限がありますが、トリファイドシャフトはカーボンシャフトと同等の性能を持ちながら木製シャフトのようなサイズ調整もできるという
両方の良いところを併せ持ったシャフトなのです。
また、付属するウェイトボルトセットで重さを変えることができ、バットエンドのウェイトボルトと併せて
キュー全体のバランス調整が可能となっています。

4回にわたり早川工房のご紹介をしてきましたが、いかがだったでしょうか。
キューを評価する際にはハギやインレイなどがたくさん入ったきらびやかな外観が重視されがちですが、キューメーカーは品質・性能のアップを目指して目に見えない部分でも様々な工夫をしているということがお分かりいただければ幸いです。
キューリペア8年、キューメーカーとして12年、合計20年ほどの実績は、早川キューがプレイヤーたちに愛され評価されてきた証だと思います。

キューショップでは早川キューはもちろん、各種ジョイントに対応したトリファイドシャフトもご用意しております。
是非お試しください。

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「My Favorite Cues」ページでは、皆様のお気に入りキューを紹介するページです。

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必要な写真は以下の4点となっております。

①全体 ②フォアアーム ③バットスリーブ ④ジョイント

※写真角度などは紹介されているキューをご参照ください。
※お客様のこだわりや自慢のエピソードなどもございましたら、是非メッセージご記入をお願い致します。

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