ビリヤードエンサイクロペディア、つまりビリヤード百科事典と題された本(第1版の初版本)です。
まだビリヤードのキューについての専門書など皆無だった時代に、キューの歴史や構造、主だったキューメーカーの紹介などを網羅したエポックメイキングとも言える本です。スタッフ野田がこの本の存在を知ってすぐに入手手配をしたことは言うまでもありません。
そしてこの本の中にバリー・ザンボッティの紹介ページがありました。
このキューが欲しいと思った私は、当時親交のあったアメリカのキューディーラーに「何とかしてこのキューを手に入れられないか」と問い合わせをしたのです。
この本にはキュー尻の写真しか掲載されていないので、フォアアームがどうなっているのかは不明だったのですが、絶対に優れたデザインだという確信があったのです。(単なる思い込みですね)
勿論、簡単に入手できるとは思っていませんでしたが、しばらくして入手が可能との連絡がありました。
当時はまだインターネットやメールなどない時代だったので、FAXでフォアアームのデザインを手書きしたものを送ってもらったのですが、それを見た私は一目で気に入り、購入したいので幾らなら買えるのか調べてくれとリクエストを出しました。
しかしそれからが大変でした。このキューはビリヤードエンサイクロペディアに掲載されたことで有名になったために購入希望者が何人もいたのです。そのためオーナーが価格をどんどん吊り上げていくという様相を呈していました。
そこで私はディーラーに「これくらいの価格でこのキューが買えるなら、ディーラーの在庫にある別のキューも一緒に買う」という話を持ちかけました。その後紆余曲折がありましたが、どうやってオーナーを説得したのか分かりませんが、数週間後に予算の許容範囲内でこのキューを入手することができました。
この時は本当にこのディーラーと懇意の関係を続けていてよかったと思いました。
フォアアームです。
正直言って、このデザインを見たときは驚きました。よく見るザンボッティ・デザインとは全く異なるものだったからです。
バーズアイメイプルに伝統的な8剣のデザインを縮小したようなイメージで、黒檀で縁取りされたピーコックとスピアヘッド及びドットインレイで構成されています。
ちなみに後日バリーにこれと同様のデザインのキューを製作できるかと尋ねたところ、「あれは、特別な1本だから、同じようなものは作らない」と断られてしまいました。
このキューは1991年12月に製作されたものであり、バリーが父のガスの跡を継いで本格的にキューメーカーとして活動を始めたのが1990年からなので、自分のデザインセンスを試すために色々実験的なトライをしていたのかもしれません。近年に至るもバリーはこれと同様のデザインのキューは製作しておらず、まさに「こんなザンボッティキューは世界でこれ1本」と言えるものです。
バットスリーブです。
バーズアイメイプルに黒檀のバーベルインレイと、黒檀のオーバルウインドウの中にプロペラインレイが施されたものが交互に入っています。
フォアアームとは違い伝統的なデザインで、私が初めて入手したプロペラインレイのザンボッティでした。
バットキャップにイニシャルのB.S.が入っています。近年の物はフルネームで入っているものが多いですね。
バリーはこういったイニシャルやネームをキューに入れることは好きではないと言っていますが、販売・購入する側にとっては真贋の判断に大きな影響を与えるので、ぜひ入れておいて欲しいものです。
このキューについて書かれた、バリーザンボッティ直筆の証明書です。
この中に、ビリヤードエンサイクロペディアの421ページにこのキューのキュー尻の写真が掲載されている旨の表記があります。
この証明書には「透かし」が入っており、これはコピー防止のためなのですが対策としては不十分なため、後年になると型押しスタンプを押すようになります。
キューを買う動機は色々ですが、「一目惚れ」というのは案外あるものだと思います。
スタッフ野田も今回ご紹介したものを含めて、一目で気に入って手に入れたキューというものが何本もあります。
一流メーカーの物なら品質の不安はあまりないので、ピンときたデザインの物があったら、できる限り即断して手に入れるというのが私の鉄則です。特に1本限りのカスタムキューではなおさらです。これをしなくて何度泣いたことか・・・
キューショップにはそんな1本もののキューもありますので、ぜひご覧ください。ピンとくるものがあるかもしれません。