100万ドルのショット

B!

こんにちは、スタッフ野田です。
本日はビリヤードに関するトピックを1つご紹介しようと思います。

みなさんがビリヤードをしていて、最も緊張する瞬間というのはどんな時でしょうか?
難しい配置をクリアしようとするとき、一か八かのショットをするとき、最後のゲームボールを落とすとき・・・人によっていろいろあると思います。
ちょっと距離のある1・9コンビを前にして、これを入れたら1億円もらえると言われたらどうでしょうか?
ほとんどの人が心臓バクバク状態になるのではないかと思います。
この写真をご覧ください。

写っているのはみなさんご存知のビリヤード界の問題児、アール・ストリックランドです。
ビリヤードの腕前は超一流(USオープン5回制覇!)ですが、その言動にはスポーツマンらしからぬものがあり、私生活でも交通事故を起こしたりして、良くも悪くもいろいろ話題を提供してくれる男です。
この写真は彼が1・9コンビにチャレンジするところです。
9番は穴前ですが、1番と手球は遠く離れており、ほぼテーブル全長の距離を使うコンビネーション・ショットです。決して簡単な球ではありません。
そしてこれを入れたら、ストリックランドは100万ドル(当時のレートで1億円以上!)がもらえるのです。

時は1996年4月10日、場所はテキサス州ダラス、ドン・マッケイの指揮するPBT(Professional Billiard Tour)に反旗を翻してPCA(Professional Cuesports Association)を立ち上げたCJワイリーらが開催した、「ダラス・ミリオンダラー・チャレンジ」というイベントでそれは起こりました。
このイベントは、ナインボールの15セット先取りのトーナメントだったのですが、10ラック連続で取りきったら100万ドルもらえるというビッグな懸賞が付いていました。
このときのPCAのルールは勝者ブレイクで、ラックのクレームをなくすためにブレイカーが自分でラックすることになっていました。
ストリックランドはペンシルバニア州のプロ、ニック・マニーノと試合を開始しました。
彼は最初のラックをブレイクし、何個かの的球をポケットし、残りを取りきりました。
マスワリです。第2セット、ブレイクで9番がポケットしました。ブレイクエースです。第3セットはマスワリ、第4セットはブレイクエース、第5セットはマスワリと、テーブルが渋いポケット設定にしてあることなどまったく関係ないようにストリックランドは取りきりを続けます。観衆が注目し始め、ビデオカメラの撮影が始められました。
第6、第7セットは連続エースとなり、100万ドル獲得がいよいよ現実味を帯びてきました。250人を超える観衆は、もう誰もストリックランド以外のゲームを見ていません。第8セットはマスワリを決め、第9セットはこのゲーム5回目のエースとなりました。
いよいよ運命の第10セット、観衆からは「いけ、アール!」の声が飛びます。
ストリックランドがブレイクし、渋いポケットのブランズウィック・テーブル上で的球がはじけ飛びます。そして何個かの的球がポケットしました。1番は他の的球に隠れることなく、手球から見えるところに転がってきます。「いける!」と誰もが思ったことでしょう。
手球はヘッドレール側のコーナーポケット近くに止まり、1番はサイドポケットから25センチくらいテーブル中央よりにあります。そしてその先のコーナーポケットの手前8センチくらいのところに9番がありました。これが写真の配置です。
ストリックランドには選択肢が3つありました。1つは、9番の横を通して1番をポケットに入れ、マスワリを目指すこと。もう1つは、1番を9番に当ててキスインさせること、そして3つ目は1・9のコンビネーションで一気に9番を叩き込むことです。
「もしマスワリを目指したら、緊張でだんだん息が詰まってミスしてしまうと思ったんだ。」ストリックランドは後にこう述懐しています。
ストリックランドの心中を知る由も無い観衆は、どうなることかと固唾を呑んで次のショットを見守ります。
構えに入り、ストロークするストリックランド。次の瞬間、手球は疾風のような速さで撞き出され、1番をヒットしました。速すぎて何人かの観衆はいったい何が起こったのか、レシーブボックスに9番が転がり落ちてくるまで分かりませんでした。
1・9コンビ成功!! ストリックランドは100万ドルを獲得しました。
ストリックランドは飛び上がり、使っていたキューテックを折ってしまいました。
会場は大騒ぎとなり、トーナメントは一時中断され、観衆はストリックランドを胴上げし、その後30分間はストリックランドのサイン会となりました。
彼にとって「人生で最高の瞬間だった」そうです。
キューテックの広告です。

宣伝文句はこうです。
「この男はキューテックで100万ドルを勝ち取りました。
普通に市販されている定価150ドルのキューテックでです。」

トーナメント再開後にストリックランドは11セット目もマスワリし、第12セットの難しい1番のバンクショットを失敗して、11連続取り切りという快挙を成し遂げました。
試合後、ストリックランドは件の1・9コンビの配置をもう一度ショットしてみたのですが、それは外れたそうです。
テキサス大学の統計学部の計算によると、10ラック連続取り切りができる確率は、780万分の1だそうです。ストリックランドは1979年にも一度10ラック連続取り切りをしたことがあり、これは実力もさることながら、よほどの強運に恵まれないとできない話です。10ラックのうち半分がエースというのもすごいと思います。
当時はもちろんラックシートなどというものはありませんでしたから、ブレイクで的球が必ず入る保証などないわけで、ブレイクで何かポケットして取り出しの的球が見えるという配置になることが10回続くだけでも強運と言えます。

ちなみに、賞金の100万ドルは保険会社(ゴルフのホールインワン保険のようなものが掛けられていた)が負担するのですが、それは毎年5万ドルずつ20年間にわたって支払われるそうです。

 

キューショプジャパンにはキューテック製品もいろいろあります。
1996年当時はストリックランドのシグネイチャーモデルがありましたが、現在はストリックランドと同じくUSオープンを5回制覇したシェーン・バン・ボーニングのモデルが発売されています。シナジー・カーボンシャフトも人気です。

 

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