大御所バート・シュレーガーのキューです。
お客様から投稿していただいたもので、入手されたのは30年ほど前とのことですが、製造されたのはそれよりもかなり古い年代の物と思われます。
一見して分かるように、よくあるショートスプライス構造ではなく、フルスプライスポイントのキューとなっています。いわゆる「本ハギ」と呼ばれるものです。
2種類の材料をV字型に切り込みを入れて組み合わせて接着する工法で、丈夫なバットに仕上げることができます。しかしショートスプライスより大きな銘木材を使う必要がある上に、もしどこかに不良個所があればすべて最初からやり直しとなり、材料の無駄が多いという難点があるため、現在ではハギを1本ずつ別個に入れられるショートスプライスやインレイハギが主流となっています。
バット上部です。
4本ハギなのですが、写真で見えている2本のハギの長さが少し異なるのが分かると思います。フルスプライス工法ではハギの長さを正確に揃えることが難しいのです。これはショートスプライスでも同様の難しさがあるのですが、フルスプライスではそれが一層困難となります。
昔はハギの長さの正確さよりも丈夫さが優先されるハウスキューなどにフルスプライス構造はよく採用され、ジョイント加工が不要なワンピースのフルスプライスキューも多数作られました。また高級なスヌーカーキューの多くは今でもワンピースのフルスプライスで製作されています。
バット後部です。
メイプルとローズウッド系と思われる銘木の組み合わせになっています。
グリップはノーラップです。
非常にシンプルなデザインで、オーナーの方からブレイクキューとお聞きしていますが、エントリーモデルとして製作されたキューの可能性もあります。
キュー尻のアップです。
インレイは一切なく、「By Schrager」のロゴもありません。
オーナーの方の説明によると塗装はオイル仕上げになっているとのことで、1980年代中期以前の相当に古い時代に製作されたもののようです。
そしてこのキューはバットが分割できるようになっています。
接合部にはカラー(リング)が付いているのですが、銘木と同色なので一見するとバットが分かれるようには見えないですね。
バット上部とシャフトを反対側から見たところです。
ジョイントはいつもの長めの10山ピンを使ったフラットフェイスジョイントです。
先角は昔のキューによく使用されたミカルタです。
バット分割構造により、このキューがジャンプキューを兼ねていることが分かります。
バットの短いキューがジャンプショットに適していることが一般に知られるようになるのは1980年代中期以降であり、このキューはあとからバット分割加工を施されたものかもしれません。
ちなみにスタッフ野田がシュレーガーの工房を訪れた際に、ジャンプキューの要望が高まってバット分割の加工をしたことが何度もあるという話をシュレーガー本人から聞きました。
現在では素材や製造法の改革によりジャンプ機能に優れたキューが製作されていますが、このようなジャンプキュー黎明期に製作されたと思われるシュレーガーキューは、ビリヤードの歴史を物語る貴重なものだと思います。
ビリヤードの歴史を物語る名品をお持ちの方は、日本国内にもたくさんいらっしゃると思います。
キューショップではキューの買取・委託販売も行なっていますので、もしお手元のキューの売却をお考えの方がいらっしゃいましたら、以下のページにお問い合わせフォームがございますので、ぜひご利用ください。